熊日多良木・湯前販売センター(有)小出忠新聞店

新聞記事を楽しむ32

~記事から気がかりに出合う楽しみ~

図書館の入り口に「本との恋の季節」と書かれた読書週間ポスターを眺めながら、「素敵な出合い」と思ったりした。
6日の朝刊に、【石牟礼文学『食』で味わう、詩人ら鼎談(ていだん)熊本市】の記事があった。「テキストとして自伝的小説『椿の海の記』を取り上げた。『椿』は4歳の石牟礼さんが主人公。昭和初期の天草の風土と人間の暮らしが匂い立つ文章で描かれている。山海で採れる恵みを詳細に描写することで『少しずつ世界が広がって、おびただしいものがあると分かる』と伊藤さん(熊本文学隊・熊本)。枝元さん(料理研究家・東京)は『生きることと食べることはくっついている。生きるという【残酷さ】に下りていくのが石牟礼さん』と持論を述べた。平松さん(エッセイスト・東京)は『自分は何なのか、人間はどういう存在なのかという問いの答えを食べ物から見つけようとしている』と指摘。『4歳という装置を通して【言葉を奉る】ことを可能にした作品と締めくくった』」と書かれていた。【言葉を奉る】の表現が何を意味するのか気にかかった。さっそく机の横に途中まで付箋を貼った読みかけの数冊の本の中から、「椿の海の記」を取り出した。また、前日に読んだ柳田国男民俗学の中に「伝統的な生活文化を構成してきたさまざまなファクター(要素)を、どう生かして行くか。単に外面的な風俗慣習ばかりでなく、内面的な要素も含めて伝来の生活文化をどのように生かす」が気にかかっていた。ところがその日の朝、廊下で「おはよう。二週間前に五木の道の駅で買った椎茸おいしかった。」「そうでしょう。私もそう思います。先生、11日、12日に五木村の子守唄祭が催されます。ぜひ来てくださいね。」と、満遍な笑顔で挨拶を返してくれた。この言葉に五木伝来の文化は確かに伝わり息づいていることに気づいた。6日の朝は、新聞記事から気がかりに出合い、生徒の言葉から気がかりが解けた「出合いの」朝だった。

このページの内容が掲載されたミニコミ誌はこちら

Copyright © 熊本日日新聞多良木・湯前販売センター(有)小出忠新聞店 All Rights Reserved.